欧州会社法の概要

平成13年12月5日

 10月8日、雇用相理事会において欧州会社法(the Statute for a European company, Societas Europaea:SE法)が採択された。同法は、各加盟国の国内法に基づかずEU法に基づいた株式会社の設立を可能にする「欧州会社規則」とSEにおける従業員の経営参加のあり方を規定する「欧州会社への労働者の関与に関する指令(以下、「労働者関与指令」)」からなる。本件は1970年の欧州委提案より30年の検討期間を経て成立したものである。

1. 評価
 本法案の採択により、設立、登記、決算報告等の会社運営について、加盟国ごとの会社法に応じて手続を変える必要がなく、欧州会社規則に準じて手続をとることができる。又、いったんSEとして登記すれば、本社を別の加盟国に移転する場合も従来のようにそれぞれの加盟国で解散・新規設立手続を行わないで済む。更に、これらの手続コストも大幅削減される。     (2)  他方、本法は、税制に関する規定を欠いており、SE設立以降も域内各国に点在するグループ内の企業、支店はそれぞれ所在国において個別の納税手続をとらねばならない。     (3)  欧州経営者連盟(UNICE)も、税制に関する規定が含まれなかったこと、欧州会社法が多くの事項をSE本社・登記住所の加盟国法に委ねている事等からSE設立の魅力は著しく減少と評価している。     (4)  本会社法においては、合併、転換によるSE設立が公開有限責任会社に限定されており、持株会社設立又は共同子会社設立によるSE設立のみが可能。日本企業の欧州進出においては非公開形態をとるケースが多く、現時点における欧州進出企業に対する被益度は限定的。


2. 欧州会社規則(Council Regulation on the Statute for a European company)概要

 本規則は、欧州会社(SE)の設立、最低資本金、機関、開示・報告、解散・清算等、通常の会社法体系を有し、各加盟国の個別会社法によらず、EUレベルの法律に基づいた会社設立、運営等を可能とする事を目指す。但し、増減資等資本金に関わる事項、決算等の開示内容、解散・清算手続等、SE所在加盟国の会社法に多くが委ねられている。本規則は、2004年10月8日より施行されることとなっている。

(1)会社の種類   公開有限責任会社
   
(2)設立方法  
    イ) 域内の国籍の異なる複数の公開有限責任会社が合併する場合
ロ) 域内の国籍の異なる複数の公開・非公開有限責任会社が持株会社を設立する場合
ハ) 域内の国籍の異なる企業が共同で子会社を設立する場合
ニ) 本社所在国以外の域内加盟国に子会社を2年以上有する公開有限責任会社のSEへの転換の場合
   
 
SEの子会社としてSE設立も可能
本社が加盟国内にない会社に関しては、加盟国法に基づき、登記住所を加盟国内に有する加盟国経済と実質的・継続的結びつきを有する会社について、加盟国はその会社がSE設立に参画することを認めることができる。
   
(3)資本金 12万ユーロ以上
   
(4)登記 本社所在地の加盟国で登記し、EU官報に掲載
   
(5)商号 個別会社名の前もしくは後に「SE」を付す
   
(6)経営組織 株主総会に加え、二層式(経営役員会と監督役員会)あるいは一層方式(執行役員会)の選択制


3. 労働者関与指令概要
(Council Directive on supplementing the Statute for a European company with regard to the involvement of employees)

 本指令は、SEにおける労働者の関与(「情報提供」、「協議」、「参加」を通じて労働者の代表が会社においてなされる決定に影響力を行使しうるような制度のこと)のあり方を規定しており、欧州会社規則の施行日である2004年10月8日までに加盟国での法制化が義務づけられている。

*従業員代表が企業経営に対して直接的に影響力を行使できるのは、「参加」のみ

(イ)  SE設立に際し、それに関与する企業の全従業員から代表者を複数選出し、当該代表者からなる特別組織を設置する。その上で、経営機関は特別組織と経営参加のあり方について交渉し、合意に至ればその内容を書面にて確定する。
   
(ロ)  但し、
1)  既存株式会社のSEへの転換の場合は従業員への参加権の付与はSE設立前の状況を踏襲することになっている。
2)  合併による設立の場合に全従業員の25%以上が、持株会社・子会社による設立の場合に全従業員の過半数が、それぞれ以前から経営参加制度の対象となっている場合には、その経営参加権の低下には従業員代表の特別多数決の賛成が必要である。
   
(ハ)  他方、労使間合意が得られない場合には、同指令付属準則が適用される。この場合、SEにおける経営参加のあり方を決定する際に最低限盛り込むことが義務づけられているのは、「情報提供」と「協議」であり、「参加」は全てのSEに義務づけられているわけではない。「参加」が義務づけられているのは、以下の通り。
1)  転換による設立では、既存の会社にその加盟国の経営参加ルールが適用されている場合
2)  持株会社又は共同子会社設立では、参加会社従業員の過半数が以前から労働者参加制度を享受する場合
3)  合併による設立の場合は、参加企業従業員の25%以上が以前から労働参加制度を享受する場合。しかし、合併設立の場合のみ、加盟国の判断でこの経営参加に関する標準規定を採用しないことも可能である。